レオス・キャピタルワークスの藤野氏 ファンドマネージャーは会社のココを見ている

 機関投資家の役割を明示した日本版スチュワードシップ・コードの策定を受け、改めて投資家と企業の対話が注目されている。資金運用の専門家であるファンドマネジャーは企業のどこを見て投資の判断を下しているのか。R&Iファンド大賞の国内株式部門で3年連続最優秀ファンド賞を受賞した「ひふみ投信」を運用している独立系運用会社レオス・キャピタルワークス取締役CIOの藤野英人氏に投資先の判断基準などを聞いた。

傘立ても投資の判断材料に

 ファンドマネジャーは企業取材を繰り返してファンドに組み入れる銘柄を絞り込んでいきます。より大きく投資したい企業に対しては直接訪問し、会社を見て経営者と対話し、その企業の現状を確認するようにしています。その際に大事なのは、いかにして想像力をたくましくするかということに尽きます。

 たとえば、入口の傘立てにビニール傘が無造作に立ててあるとしましょう。この会社には投資すべきでしょうか。答えは「しない」。傘立ての中で傘がグチャグチャになっている会社は整理をする人がいないことを物語っています。あるいは、会議室の時計が5分以上狂っている会社も投資対象外です。これは社員の誰もが当事者意識を持っていない証拠であると同時に、うるさい管理部長や経営者がいないことを意味します。こうした会社はコンプライアンス(法令順守)などで大失態を演じる可能性もあるかもしれないということです。

決算数字より大事なもの

 ファンドマネジャーやアナリストの多くは、発表された決算数字に基づいて銘柄を選別し投資するのが株式投資の本質だと考えています。ただ、これには大きな問題点があります。数字を詰める質疑応答をファンドマネジャー達と繰り返すうち、「予実管理」が経営だと思い込んでしまう経営者が増えてしまうのです。

 予実管理とは予算と実績を比較し、その達成度合いを見つつ、進捗していない分はその理由を明らかにしていくマネジメント手法です。もちろん、それ自体は経営上必要なことですが、あまりにも度が過ぎると、経営者は目先の数字の達成率を上げようとして、ますます短期志向になります。四半期決算が導入されてから、一段とその傾向が強まってきました。

 しかし、目先の数字を上げるため、会社にとって長期的に必要と思われる投資を行わないとしたら、それは経営とは言えないでしょう。数字は確かに大事ですが、それにも増して経営者が常日頃から考えておくべきことがあります。私が企業訪問して経営者に会う場合は、その本質的な部分を確認するようにしています。

 具体的には、「あなたの会社のお客様は誰か」「お客様はどういう意味を持っているのか」「従業員とは何か」「社会にどういうインパクトを与えたいのか」「経営者としての夢は何か」ということです。いずれも正解のない質問ばかりですが、これらの質問に対してどう答えるのか、その態度をチェックしています。

企業と投資家、対話を通じ理解

 このような質問を経営者に投げかけつつ、最終的に投資するかどうかを決める場合には数字も大きな判断材料です。利益と株価は一致しますから、やはり5年間で利益が2倍になるような企業に投資したい。それには、過去の業績が増収増益であることが大事です。ただ、数字の裏には人間がいるということも忘れてはいけません。業績が良い時も悪い時も逃げ隠れせず、現状を正直に話してくれる経営者やIR担当者がいる会社は信頼できます。

 企業と機関投資家の関係は決して一方通行ではなく、対話を通じてお互いを理解するものだと考えています。日本版スチュワードシップ・コードの導入によって企業と投資家が対話を深めていくというのは、これを意味しているのです。

 恐らく、これからは企業の数字情報に対する着眼点も大きく変わっていくでしょう。四半期決算の良し悪しだけで投資の可否を判断するのが今までの主流だとしたら、これからはROE(株主資本利益率)を中心に本当の意味で株主価値を高めているかどうかという点が投資の判断基準になっていくはずです。

※スチュワードシップ・コード

機関投資家向けに定められた行動規範。2008年の金融危機をきっかけに英国で2010年に制定された。「企業が長期の持続可能なパフォーマンスを高めるよう、株主・取締役・他の利害関係者が、企業の運営プロセスに影響を及ぼすこと」を目的としている。
日本では2013年8月に「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(座長 神作 裕之 東京大学大学院法学政治学研究科教授)がコードの策定に向けて議論開始。2014年2月に金融庁が策定・公表した。機関投資家に対し、投資先の企業価値向上に向けた責任のある行動原則を求めている。信託銀行、投信・投資顧問会社、年金基金等合計160社が日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明(2014年9月現在)。

(参考)金融庁ホームページ

■日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会
http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/

■「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫(2014年2月26日)
http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.pdf

■「『責任ある機関投資家の諸原則』≪日本版スチュワードシップ・コード≫〜投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために〜」の受入れを表明した機関投資家のリスト(2014年9月2日現在)
http://www.fsa.go.jp/news/26/sonota/20140902-1/list_01.pdf

藤野英人(ふじのひでと)氏プロフィール

レオス・キャピタルワークス株式会社取締役CIO
野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て2003年レオス・キャピタルワークスを創業、CIO(最高運用責任者)に就任。中小型成長株の運用経験が長く、ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。東京証券取引所が主催する金融リテラシー向上に向けたセミナー「東証アカデミー」フェロー。

レオス・キャピタルワークス株式会社 ホームページ http://www.rheos.jp/