大和住銀投信投資顧問の蔵本氏 経営者は自社の経営上の問題点を把握し、投資家に「質」の高い経営ビジョンを示して

 2014年2月に策定された機関投資家の行動指針(スチュワードシップ・コード)と、15年6月に適用が始まった企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)。これら指針について大和住銀投信投資顧問執行役員の蔵本祐嗣氏は、一部の人たちが主張するような、投資家が企業に個別具体的な経営のやり方を教えるということを意味しないと指摘する。企業内部の人たちの方が専門的、具体的な情報を豊富に有していることから、投資家が企業に具体的な経営戦略を教えるという構図は一般的ではないからだ。

 2つコードの本来の目的は①株式市場との対話、場合によっては市場からの厳しい眼を受け、日本の上場企業が自己資本利益率(ROE)を高めることを通じて、日本経済全体の成長戦略につなげる仕組みを構築すること。②世界中の株式市場が陥りがちな四半期決算に振り回されるショートタームイズムから脱却し、日本企業の収益力の持続的改善というこれからの長期に亘る要因を正当に、株価に反映されるルートを確立すること、にあると指摘する。

高いROEが日本企業のルールを変える

 ROEに直接関心を持つのは株主のみだ。株主以外のステークホルダー(利害関係者)にとっては、企業業績が赤字でなければ直接的な影響は限られる。だが、ROEが低くても誰も問題としないのであれば、企業は赤字決算になるなど、銀行や従業員から不満が上がらない限り、将来性に乏しい低収益もしくは赤字事業であっても継続することができる。このような状況下では、多くの企業が市場から撤退せずに事業を続け、過剰設備、過当競争の環境が持続し、たとえ技術力が高くても同業者すべてが低収益に甘んじる我慢合戦となってしまう。低収益体質は将来に亘っての事業の継続性を弱め、R&D原資の減少などを通じ、一社のみならず多くの企業を巻き込み、将来の競争力の基盤が損なわれることとなってしまう。企業に高いROEを求めることは、個々の会社の経営状況を改善し、個社の株価が上昇するだけでなく、企業全体を取り巻くルール、つまり、日本経済全体のシステムを変えることにもつながる。

長期的な要因を無視すると痛い目に合うという仕組みを再構築することが重要

 株式市場でショートタームイズムが蔓延しているのは、「失われた20年」を経て、これまで日本株の長期保有で得した経験がある人がいなくなったためだ。またバブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショックなどの外部要因の激変もあって、企業の中期経営計画や長期経営計画自体の信頼性が低下してしまったこともショートタームイズムを招く結果となった。企業が打ち出す中計などは無視しても株式投資には何の影響もなく、むしろそんなものを信じるナイーブな投資家は、消え去っていくという実感も持つ投資家が多く存在している。今後、企業の中長期戦略が達成されるという実例を積み重ねることで、もしくは企業の打ち出す中長期戦略の達成可能性が無視できないぐらいに良質なものにブラッシュアップしていくことで、投資家が企業の中長期の成長力や、収益性の改善といった長期的な要因を無視すると痛い目に合うことを実感してもらうことが、株式市場のショートタームイズム解消の、もっとも根本的な方策ではないか。

 そのためには、経営者が高品質の経営ビジョンを打出し、なによりも経営者の真剣さを認めさせること、そして、投資家と双方向の対話を通じ、市場に刷り込んでいくことが重要になる。一部の論者が主張するような、長期保有の株主に対する優遇措置という手段は王道ではないと思う。

 まずは、経営者が自社の経営の現状をしっかりと認識し、問題点を把握することがスタートポイントとなろう。適切な現状認識を踏まえ、ROEを持続的に向上させるための具体的方策と経営者のコミットメントを、経営者が自らの声で語り、国内外の投資家に質の高い経営ビジョンを示す。たとえ今後、外部環境の激変に見舞われても、わが社は、他社に比べ状況にうまく対応できるんだということを投資家に訴えていただきたい。また、仮に事業計画が上手くいかなかった場合でも、次善の策やプランBをちゃんと持っていることも投資家の信頼性を高めるうえで重要だ。これからの経営者に求められるスキルは、口うるさい投資家を説得し、「この人の言うことなら信用できる」と思わせることだ。

日本企業に今、最も必要とされているものは経営力

 日本企業に最も必要とされているのは経営力ではないか。世界が大きく姿を変えつつある21世紀にあって、リスクをリターンに変えるスキルを持つ経営者が何よりも必要だ。新興国が急速に台頭し、自社を取り巻く競争環境が急速にグローバル化しているいま、経営者の果たすべき役割は格段に重くなったと思う。「問題は現場で起こっているのではなく、会議室で起きている」のが企業社会の現実ではないか。日本は長い間世界で2番目の経済大国であることができたため、多くの人はグローバルといっても、米国、せいぜい欧州程度までしか意識していない人が多いが、気が付けば中国やインドがハイテク分野でも台頭してきた。テレビやスマートフォン(スマホ)など競争が厳しい業界から、すでに日本企業の生き残りが困難になりつつある。

 こういった状況下で、これからの日本企業はどうすべきなのか。従来のような漸進的な改善だけでは生き残れない。経営者は大きな旗印を示して従業員を引っ張り、社内外のステークホルダーを説得し、事業戦略を競わなければならない。競争に打ち勝つためには、社内に埋もれている人材や技術を生かすことも重要だ。外部からのプレッシャーに前向きに向き合い、これまでは社内政治やパワーバランスで開発を放棄していた案件を発掘し、潜在的なリソースを活用することもM&Aによる外部成長と同じ価値がある。

多様性で企業も進化を

 「社外取締役に適任がいない」などという声を聞くが、そもそも社外取締役と、社内出身の取締役は求められる役割が異なるはずだ。社内出身の取締役と同じ専門性、志向性を持った社外取締役を招聘しても、取締役会の同質性から脱却できず、多様性を高めることはできない。たとえば経営者出身の社外取締役は大局的な経営戦略の観点を新たに取締役会の議論にもたらすことができるだろう。また経営戦略的観点から、どのような新規事業を進めるべきかを論ずることもあるだろう。一方、社内出身の取締役は本当にそれが出来るのかどうか、達成するための手順や方策を議論できる。このような異なるベクトルを組み合わせることが、経営の質を高め、また環境変化への対応力を高めるためには不可欠であろう。

 日本企業は従来、従業員中心のコミュニティとしての意識が強かった。均一性の高い社内の「ムラ」の論理で、互いに空気を読んで動くことが多かった。しかしながらグローバル競争が激化する環境にあっては、従来は日本企業の強みであったこれらの特徴が、弱みに転じている企業も少なくない。日本人同士では働きやすい社内の暗黙のルールも、日本人以外の従業員にとっては、悪しき因習ととらえられ、日本企業が海外で優秀な人材を確保することが困難となっているケースもまたしばしば聞く話であろう。このような状況を改善するために必要なのが人材の多様性確保(ダイバーシティー)だ。ダイバーシティーは決して社会正義の観点から、男女や外国人と日本人のバランスを整えることではなく、異なる感覚や感性を内部に取りこむことで組織の活性化を図り、またしなやかさを取り戻すための手段でもある。過去の成功体験に捉われ、動脈硬化を起こしているかもしれない組織に新陳代謝を促す有効な手段だ。。種としての多様性を確保することで、突然変異の可能性を保つことも企業の持続性を高めるうえで不可欠だ。

 これからの5年、10年をどのようにして生き延びるのか、といった比較的ロングスパンの議論は、日々業務に追われる社内スタッフだけでは限界がある。外部の人の観点を取り入れれば、「ガラスの天井」も打ち破れる可能性が高まる。もちろん、外部の観点だけでは機能しない。取締役会は業務の専門家たる社内出身の取締役と、社内にない眼を持つ社外取締役をうまく混ぜ合わせることが大事で、これを意識すれば取締役会の議論の質が高まることにつながるはずだ。取締役会での多面的かつ多様で活発な議論を経て、経営最高責任者(CEO)が長期ビジョンを打出し、社内外にアピールしてほしい。中身のあるガバナンスは成長力ある企業をつくりだす仕組みであるため、株主だけではなく、従業員をはじめとする多くのシェアホルダーにとっても良い効果があるはずだ。

ブラッシュアップする関係に

 企業が外部からの刺激を受けながら、どのように経営を考え、推進するかを、投資家に説明することで、双方向性の関係をつくり、Win-Winとなる。このことが、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを最も活かす方策と考える。

蔵本 祐嗣(くらもと ゆうじ)氏 プロフィール

大和住銀投信投資顧問株式会社執行役員
東京大学経済学部卒業。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
同社のコーポレートガバナンス活動に長年携わる一方、経済産業省企業報告ラボの委員などを務める。